園長室

令和4年9月:池田 巧園長より挨拶

           

この夏,豪雨により市内では,大きな被害が生じました。被害の傷跡は深く,現状復帰には,ほど遠い地域もあります。被害に遭われた方々に改めてお見舞い申し上げます。

園では,運動会に向けた取り組みが始まっています。当日の競技や演技が,創り出される過程の中で,一人一人に価値ある学びが生まれることを期待しています。

さて,本年度も「やりたいことにチャレンジする子」を目指しているところですが,「やりたいことにチャレンジする子」では,わがままな子が育ってしまうのでは?とのご指摘を耳にすることがあります。今回は,子どもの主体性を生かす教育・保育は,自己中心的な子に育ってしまうのかについてお伝えします。

 その前に,子どもの発達と関係する面がありますので,この点からお話ししていきたいと思います。

 

子どもの発達の特性

 子どもは、4歳ごろからの脳の前頭前野が急速に発達してきます。すると,以下のような姿が見え始めます。

・昨年度の年中組の運動会でのかけっこ。ゴールを目指して走る競技ですが,ある子は,ゴール間近になったにもかかわらず,遅れて走っている子が心配だったようで急にUターンし,手を繋ぎ一緒にゴール。

・今年度,年中組の7月の泥遊び。雨どいを使い,水を流す遊びに発展し,泥団子を雨どいに流すと泥団子がすぐに溶ける(崩れてなくなる)ことに気付く。はやく溶けなくなる方法を石を混ぜたりしながら,試行錯誤し探り始める。すると,ある子は,はやく溶けてしまう理由を泥団子に混ぜる水の量と関係づけて考えた。

 最初の姿は,自分のゴールより,友達の気持ちを想像し,推し量った心の働きが伺えます。2つ目の姿は,自然の事象の要因を探り事象が生じる理由を他の要因と関係づけて説明しようとする科学的な思考の一つです。この時期では,友達の気持ちを理解したり,深く考えたりすることがきるようになる等,思考力や想像力が発達し,少し先のこと(将来のこと)も予測できるようになってきます。

 

主体性を生かした教育・保育で育まれる協調性や思いやりの心

 乳児期のように自己の欲求に依存した行動が、年齢が大きくなっても続けば,「わがままな人」になってしまいます。しかし,今ほどお話ししたように4歳児頃から脳の発達により,思考力や判断力が育まれてきます。このような時期に,やってみたいことを行う中で生じる課題(どうしたらうまくなるか,どうしたらみんなで楽しめるか,どうしてそうなるのか等)を考え,子ども自らで試行錯誤する経験を多く積ませることが,脳の前頭前野を適度に働かせることになり結果として思考力・想像力,判断力等様々な能力が育まれていきます。また,このような経験には,必ずといって友達との関わりが生じます。そのため,協調性や他人の痛みを想像した思い一方,大人の指示が多いと,その指示に従っていればよいという安易な気持ちが強くなり,自分で考えたり判断したりすることが苦手になってしまいます。また,大人がよかれと思って何でも先回りしたりすることは,考えたり判断したりする経験の場を削ぎ取ってしまうことになりがちです。大人の過干渉がよくないと言われるのはこのためです。子どもの求めに対して,すぐに答えを出すのではなく「あなただったらどうしたい?どう考える?」と問い返し,子ども自らの判断を尊重していくような大人の関わりが大切なのかもしれません。

「やりたいことにチャレンジする子」が目指す教育・保育は,好きなことを好き勝手にさせる教育・保育ではなく,子どものもつ主体性を生かしながら,意図的にその年齢に応じた経験を積ませる(環境を通して行う)教育・保育なのです。他を思いやる気持ちは確実に育っていきます。

さらに,全国の多くの実践例から子どもの主体性を生かした保育実践は,利己的な人間が育つのではなく,他者を大切にする,協調性等が育つことが認められています。(神戸大学大学院人間発達環境学研究科 北野幸子氏講演から)

  ただし,子どもの主体性に委ねてばかりでは,身に付かないことがあります。例えば,園では,地震や火事等の災害から身を守る方法,道具の使い方(スプーンや箸,ハサミ等の持ち方・使い方)等は,保育者が積極的に関わるようにしています。                                                                                                  園長 池田 巧